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静岡地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決

静岡県浜松市佐鳴台四丁目四番二一号

原告

氏原定雄

静岡県浜松市佐鳴台四丁目四番二一号

原告

氏原やす

静岡県浜松市葵町三三八番の五

原告

氏原強

右三名訴訟代理人弁護士

石田享

静岡県浜松市元目町一二〇番地一

被告

浜松西税務署長 納屋昭宏

右指定代理人

小池晴彦

志村勉

鈴木朝夫

高柳昌興

木村勝紀

小田嶋範幸

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

1  浜松税務署長が平成元年三月一三日付けでした原告氏原定雄の昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額三一三万七四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  浜松税務署長が平成元年三月一三日付けでした原告氏原やすの昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額六四万六八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  浜松税務署長が平成元年三月一三日付けでした原告氏原強の昭和六〇年分所得税の更正のうち納付すべき税額六四万六八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らの昭和六〇年分所得税に係る税額の算出に当たって、原告らが浜北砕石株式会社(以下「浜北砕石」という。)から得た収入(後記本件収入)の金額並びにこれが譲渡所得に係る収入金額であるのか、雑所得に係る収入金額であるのかが争われた事案である。

一  争いのない事実等

(末尾に証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告氏原定雄(以下「原告定雄」という。)と原告氏原やす(以下「原告やす」という。)とは夫婦であり、原告氏原強(以下「原告強」という。)は右夫婦間の子である。

(二) 被告は、大蔵省組織規程の一部を改定する省令(平成乙年大蔵省令第五八号)により、平成元年七月一日、浜松税務署の管轄区域が浜松東税務署と浜松西税務署の各管轄区域に分割されたことに伴い、同日以後、後記本件各課税処分に係る浜松税務署長の事務に属する権限を承継したものである。

2  本件各課税処分の経緯

(一) 原告定雄の昭和六〇年分所得税について、原告定雄が浜松税務署長に対してした確定申告、同業者同税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告定雄がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第1の1のとおりである(以下、右更正を「原告定雄に対する更正」といい、右過少申告加算税賦課決定ほ「原告定雄に対する賦課決定」という。)。

(二) 原告やすの昭和六〇年分所得税について、原告やすが浜松税務署長に対してした確定申告、同税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告やすがした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第1の2のとおりである(以下、右更正を「原告やすに対する更正」といい、右過少申告加算税賦課決定を「原告やすに対する賦課決定」という。)。

(三) 原告強の昭和六〇年分所得税について、原告強が浜松税務署長に対してした確定申告、同税務署長がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告強がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表第1の3のとおりである(以下、右更正「原告強に対する更正」といい、右過少申告加算税決定を「原告強に対する賦課決定」という。また、原告定雄に対する更正及び賦課決定、原告やすに対する更正及び賦課決定並びに原告強に対する更正及び賦課決定を一括して「本件各課税処分」という。)。

3  争点に係る以外の原告ら所得金額等

後記本件収入に係る所得以外の原告らの昭和六〇年分所得税に係る所得金額、所得控除額及び源泉徴収税額は、別表第2の1ないし3の各備考欄に「争いがない」との記載のある項目に係る金額欄記載の金額のとおりである。

4  浜北砕石との岩石譲渡契約

(一) 原告らは、昭和五五年一二月頃、岩石の採取等を業とする浜北砕石との間で、原告らの共有に係る別紙物件目録1ないし15記載の各土地(いずれも原告定雄の持分一〇分の四、原告やす及び原告強の持分各一〇分の三、以下、右各土地を一括して「本件契約土地」という。)に埋蔵されている岩石につき、昭和五五年一二月一日から一〇年間にわたり浜北砕石がこれを採取して、その採取した岩石の売渡を受ける旨の契約を締結した(なお、右契約は本件契約土地の賃貸借契約の形式で行われた。以下「本件基本契約」という。)。

(二) 原告は、これより先、昭和五五年一一月頃、浜北砕石との間で、浜北砕石が昭和五五年一二月一日から昭和五六年一一月三〇日までの間にわたり本件契約土地に埋蔵されている岩石を採取してその譲渡を受け、浜北砕石はその代金として、右期間中、月額一七五万円宛てを原告らに支払う旨の契約を締結しており(本件基本契約同様、賃貸借契約の形式で行われ、右月額代金中一四五万円は賃料の名目とされたほか、残額三〇万円は樹木代金の名目で支払われることとされた。)、以後、昭和五八年まで毎年一一月に本件基本契約に基づくものとして右と同様の岩石譲渡契約を締結し(但し、昭和五八年中に、岩石の採取を行う土地として、本件契約土地に別紙物件目録16及び17記載の各土地(原告らの共有であり、共有持分は本件契約土地に同じ。)が追加された。以下、本件契約土地と右二筆の各土地とを併せて「本件追加契約土地」という。)、昭和五六年から昭和五九年までの各年中に浜北砕石から一年当たり二一〇〇万円宛ての譲渡代金収入を得ていた。

(乙第一ないし第四号証、第一〇ないし第一三号証、第三一ないし第四〇号証の各一ないし三、原告氏原定雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨、なお、本件追加契約土地の原告定雄の持分が一〇分の四、原告やす及び原告強の持分が各一〇分の三であることは争いがない。)

5  浜北砕石との本件売買契約

原告らは、昭和五九年一一月にも、本件追加契約土地に埋蔵されている岩石を対象とし、期間を同年一二月一日から昭和六〇年一一月三〇日までとする右4の(二)と同様の岩石譲渡契約を締結したが(以下「本件期間契約」という。)、その後、昭和六〇年一〇月頃、原告らと浜北砕石との間で、原告らが本件追加契約土地中の別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を浜北砕石に売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)が締結された。そして、本件売買契約に係る契約書には、その代金を一四九五万円とする旨及び本件基本契約を合意解約する旨が記載された。

(甲第一号証、乙第五、第一一号証、原告氏原定雄本人尋問の結果、弁論の全趣旨。なお、昭和六〇年中に原告らと浜北砕石との間で本件売買契約が締結されたことは争いがない。)

二  争点及びこれについての当事者双方の主張

1  争点

本件において、被告が主張する原告らの昭和六〇年分所得税に係る納付すべき税額及びその算出の過程は別表第2の1ないし3のとおりであるが、右の算出の前提として、被告は、原告らには昭和六〇年中に浜北砕石から本件期間契約に基づく合計一八三五万円の岩石譲渡代金収入があり、右収入金額に係る所得は、所得税法上、雑所得に区分されるものであると主張する。

これに対し、原告らは、原告らと浜北砕石とは、本件売買契約において、その代金を一四九五万円とし、かつ、本件期間契約に基づく昭和六〇年中の岩石譲渡代金一四九五万円をもってこれに充当する旨合意したから、右収入金額は、本件土地の売買代金であり、これに係る所得は、所得税法上、譲渡所得に区分されるものであると主張し、また、仮に、右収入金額が本件期間契約に基づく岩石譲渡代金であるとしても、これに係る所得は、所得税法上、譲渡所得に区分されるものであると主張する(以下、原告らの昭和六〇年中の浜北砕石からの収入を、その額が幾らであるか、また、これが岩石譲渡代金であるのか、本件土地の売買代金であるのか、これに係る所得の区分が雑所得であるのか、譲渡所得であるのかを問わず、「本件収入」という。)。

そこで、本件の争点は、次のとおりである。

(一) 本件収入金額は幾らであるのか。

(二) 本件収入は、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金であるのか、本件売買契約に基づく本件地の売買代金であるのか。

(三) 本件収入に係る所得は、所得税法上、雑所得に区分されるのか、譲渡所得に区分されるのか。

2  争点に関する被告の主張

(一) 争点(二)について

浜北砕石は、昭和六〇年中に、本件売買契約の前後を通じ、本件期間契約に基づいて、継続して本件追加契約土地から岩石の採取を行い、月々所定の岩石譲渡代金を原告らに支払っていた。原告らは、右岩石譲渡代金を本件売買契約の代金に充当した旨主張するが(但し、主張の一四九五万円は右岩石譲渡代金の一部であって、全部ではない。)、充当された部分に相当する岩石譲渡代金が浜北砕石から原告らに別途支払われた事実も、既に採取された岩石が浜北砕石から原告らに返還された事実も存在しないのであるから、仮に、原告らの主張のとおりであるとすれば、一四九五万円にも相当する岩石が原告らから浜北砕石に無償で譲渡されたことになり、極めて不合理である。のみならず、本件土地は、浜北市北部の奥深い山林地域に所在しているところ、原告ら主張のとおりであるとすれば、本件土地が、一平方メートル当たり六万円弱の価格で売買されたことになるが、浜北市内の第一種住居専用地域に指定されている住宅地においても、昭和六〇年地価公示価格による一平方メートル当たりの価格は六万円に過ぎないことに較べれば、公示価格と実勢価格との差を考慮しても、なお本件土地売買契約の代金額は異常に高額であるといわざるを得ない。本件売買契約の契約書に記載された価格は、一年間分の賃借料(岩石譲渡代金)に見合う金額にしたいとの、原告定雄の申し出により決められたものであるが、原告らは昭和五九年分以前の所得税の申告等を通じ、岩石譲渡代金収入に係る所得が雑所得として課税されると、譲渡所得として課税される場合に較べ、税負担が重くなることを熟知していた。

以上の事実に鑑みれば、原告ら主張の一四九五万円を含む本件収入は、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金であり、ただ、原告らは、本件収入に係る所得が雑所得として課税されることを回避するため、岩石(但し、実際はその一部である。)をその代金額と仮装したものと推認され、本件土地自体は実質的に無償で譲渡されたものと認められる。

(二) 争点(三)について

(1) 原告らは、昭和五五年以降、浜北砕石に対し岩石を譲渡するに際し、物価の変動その他の不確定要素を考慮して、一年ごとに譲渡契約を締結しており、現実に、昭和六〇年までの間に、譲渡代金や岩石を採取する土地の範囲に変更が生じている。本件基本契約が締結されたのは、浜北砕石において岩石採取許可を得るために長期間の契約の締結が必要であったためであるにすぎない。したがって、原告らのした岩石の譲渡は、一回的なものではなく、各年ごとに締結された譲渡契約に基づいて各年ごとに行われたものであり、継続性を有することは明らかである。

また、右のとおり、原告らは、岩石の譲渡に当たり、物価の変動その他の不確定要素を考慮して一年ごとに譲渡契約を締結していたほか、既に昭和四九年に、浜北砕石に対し、本件契約土地の一部である別紙物件目録8記載の土地、同目録1記載の土地(本件土地)及び同目録2記載の土地に埋蔵されている岩石を二〇〇〇万円で譲渡したことがあり、昭和五五年に浜北砕石との間で岩石譲渡契約を締結する以前には、他の業者とも岩石譲渡の交渉を行っている。さらに、本件追加契約土地は、その全部が原告ら父祖伝来のものではなく、別紙物件目録9及び10記載の各土地は昭和四九年の岩石譲渡の後、昭和五一年にかけて取得したものであるし、また、原告らは、これ以外にも、本件契約土地周辺の岩石を埋蔵する土地を他から取得しており、これらの土地取得は岩石採取用地としての形状を整えてその資産価値を高めることを企図したものと推認される。以上の事実に、原告らと浜北砕石との岩石譲渡契約による岩石譲渡の対価が、昭和五九年までは毎年二一〇〇万円、昭和六〇年においても一八三五万円という高額なものであることを併せ考えると、原告らのした岩石の譲渡が営利を目的としたものであることも明らかである。

したがって、本件収入に係る所得、すなわち原告らの浜北砕石への岩石の譲渡による所得は、所得税法三三条二項一号に該当し、譲渡所得に当たるものではない。

(2) 原告らは、所得税基本通達(昭和四五年七月一日直審(所)三〇国税庁局長宛国税長官通達、但し、平成元年一二月六日直所三-一四通達による改正前のもの。以下「基本通達」という。)三三-三及び同三三-六の三を引用して、本件収入に係る所得が譲渡所得に含まれると主張する。

しかし、基本通達三三-三は、建物を建築して利用する土地そのものの供給の促進を趣旨とするものであるところ、岩石譲渡契約は、その性質上、土地の構成部分である岩石が地中に存する段階において締結され、これを土地から分離させる主体は譲受人となるものではあるが、右契約における譲渡代金は土地から採取された岩石の対価であって、土地そのものの対価ではない。本件収入が本件期間間契約に基づく岩石譲渡代金であることは右(一)のとおりであるから、本件収入に係る所得につき、基本通達三三-三を適用する余地はない。

また、基本通達三三-六の三は、一般に、土砂、砂利等の譲渡契約が様々な取引形態によって行われるものの、いずれも土砂等という資産の経済的価値に着目して、これを有償で移転するという同一の経済目的のための行為であることに鑑みて、その取引形態がどのようなものであれ、その外観的な形態にとらわれず、右取引から生ずる所得を譲渡所得とすることにより、課税の公平と統一を図ろうとする趣旨のものである。しかし、所得税法三三条二項一号は、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は譲渡所得に該当しないものとしているのであり、これは土砂等の譲渡においても当然に妥当するから、基本通達三三-六の三は、明文により営利を目的として継続的に行われる土砂等の譲渡をその適用範囲から除外している。そして、本件収入に係る所得が、原告らが営利を目的として継続的に行った岩石の譲渡による所得であることは、右(1)のとおりであるから、これについて基本通達三三-六の三の適用がないことは明白である。

3  争点に関する原告主張

(一) 争点(二)について

原告らは、浜北砕石に対し、代金額を一四九五万円と定めて本件土地を売り渡し、既にその所有権移転登記を経ているものであって、本件売買契約が存在することは明白である。そして、その代金支払方法について、原告らと浜北砕石とは、本件期間契約を合意解約し、その岩石譲渡代金一四九五万円を本件売買契約の代金額に充当するという合意をしたものである。

売買契約は、財産権の移転と代金の支払とに関する合意によって成立する契約であり、その代金額や支払方法などの決定は、公序良俗に反しない限り、契約自由の原則に委ねられている。本件売買契約の代金支払方法が日常的な売買契約の場合と異なるものであったとしても、それは本件売買契約の成立に何ら影響を及ぼすものではないし、また、売買代金額の高低は買主側の需要の強弱に強く影響されるところ、浜北砕石には、砂利採取法、地すべり等防止法、砕石法等に基づく行政上の諸規制や規則に則るために自由に利用できる土地部分が必要とされ、そのために本件売買契約が締結されたものであるから、住宅地との比較において本件売買契約における代金額の高低を論ずることは無意味である。

したがって、本件収入が本件売買契約に基づく本件土地の売買代金であることは明らかである。

(二) 争点(三)について

本件収入は、右(一)のとおり、本件土地の売買代金であるから、これに係る所得が所得税法上、譲渡所得に当たることは明らかである。

仮に、本件収入が岩石譲渡代金であるとしても、次のとおり、これに係る所得は譲渡所得に区分されるべきものである。

(1) 本件契約土地は、原告ら父祖伝来のものであり、原告らが転売目的で取得したものではないし、これに埋蔵されている岩石を譲渡する契約は、浜北砕石から再三の要請に対し原告らがいわば渋々ながら応諾するに至ったものであって、原告らには右岩石を譲渡する目的は元来存在しなかったものである。のみならず、昭和五五年に浜北砕石との間で岩石譲渡契約を締結する段階で、譲渡代金額が定まり、原告らはその一括払いを希望したものの、浜北砕石の資金事情に合わせて、一〇年間にわたる月ごとの分割払いとしたために、本件基本契約のほか、一年ごとに譲渡契約を締結していたもので、右一年ごとの譲渡契約は当初の契約と同一内容であり、右の岩石の譲渡は一回的に行われたものである。

したがって、右の岩石の譲渡は、営利を目的とするものでもなく、また継続して行われたものでもないから、右譲渡による所得は、所得税法三三条二項一号に該当せず、同条一項により譲渡所得に区分されるべきものである。

なお、被告は、原告らが昭和五五年に浜北砕石との間で岩石譲渡契約を締結する以前に、他の業者とも岩石譲渡の交渉を行ったと主張するが、かかる事実は存在しない。

また、被告は、別紙物件目録9及び10記載の各土地は、原告らが昭和四九年から昭和五一年にかけて取得したものであって、原告ら父祖伝来のものではなく、これを取得することにより原告らが岩石採取用地としての形状を整えてその資産価値を高めることを企図したなどと主張するが、右各土地は、元来、原告定雄の祖父氏原長作が所有していたもので、同人の孫(原告定雄の従兄)である氏原照雄に譲渡されたものの、氏原照雄が多額の負債を抱えた際に、同人の子である氏原良雄が負債整理のため他に売り渡したが、その際、一族の氏原文雄(原告定雄の父)が買い戻すことを約しており、その実行により、氏原文雄が買い受けて原告定雄所有名義で登記をしたものである。したがって、実体においても、原告定雄の認識においても右各土地は原告定雄が相続により承継したものと同視することができるものであり、まして、岩石採取用地としての形状を整えてその資産価値を高めることを企図して原告らが取得したものではない。

(2) 基本通達三三-三は、不動産を相当の期間にわたり継続して譲渡している者の当該不動産の譲渡による所得(すなわち所得税法三三条二項一号に該当する所得)であっても、極めて長期間(概ね一〇年以上)引き続き所有していた不動産の譲渡による所得は譲渡所得に該当するとしているところ、地中の岩石は分離されるまでは不動産である土地を構成しているのであるから、それが浜北砕石によって分離される前に締結された本件期間契約を含む各岩石譲渡契約は不動産を対象とする譲渡契約であり、これによる所得は右通達に従って譲渡所得とされるものである。

また、基本通達三三-六の三は、土地の所有者が、その土地の地表又は地中の土石、砂利等を譲渡した場合には、その譲渡による所得は譲渡所得に該当するとしているところ、本件期間契約を含む各岩石譲渡契約による所得がこれに該当することは明らかである。

(3) なお、仮に、譲渡代金に係る所得区分に関する租税法規が一義的に明確でないとすれば、租税法律主義の原則に照らし、納税者にとって最も負担の少ない解釈適用が行われるべきであるところ、この点からしても、本件収入に係る所得は譲渡所得に区分されるべきものである。

第三争点に対する判断

一  争点(一)について

1  右第二の一の4及び5の各事実に、証拠(乙第六、第一一、第一四、第一五号証)及び弁論の全趣旨を併せ考えると、(一) 原告らと浜北砕石とは、昭和五九年一一月、期間を同年一二月一日から昭和六〇年一一月三〇日までとし、原告らが本件追加契約土地に埋蔵されている岩石を浜北砕石に売り渡し、浜北砕石は、その代金として、右期間中、月額一七五万円宛てを原告らに支払う旨の契約(本件期間契約)を締結したこと、(二) 昭和六〇年中に、浜北砕石から、濱松信用金庫蜆塚支店の原告定雄、原告やす及び原告強連名の預金口座に、別表第3のA欄記載の年月日に同表のB欄記載の金額(計一三三〇万円)が振込入金されたこと、(三) 浜北砕石は、原告らに対し、昭和五七年三月二三日に二〇〇〇万円、同月二五日に一一五〇万円の係争年分三一五〇万円を貸し渡し、その返済方法につき、原告らとの間で、浜北砕石が原告らに支払うべき月額一七五万円の岩石譲渡代金のうちから、各月五〇万円宛てを右貸金の弁済額として相殺する旨の合意をして、同年四月分以降の岩石譲渡代金の支払からその実行を開始したところ、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金の支払の時点でもこれが継続していたこと、(四) 浜北砕石は、昭和五九年頃から本件追加契約土地から採石量が低下するなどして月額一七五万円の岩石譲渡代金を負担するのでは採算に合わなくなってきたために、原告らに対し右代金額の減額を求め、その結果、本件期間契約の契約期間中である昭和六〇年九月分以降、岩石譲渡代金を月額一四五万円とする旨の合意が原告らとの間でなされたが、同月分から、月額五〇万円宛ての相殺による借入金返済は行われなくなったこと、(五) 浜北砕石は、その昭和六〇年八月までの事業年度の決算において、原告らに対する一〇五万円の岩石採取料未払金を計上したこと、以上の事実が認められ、原告氏原定雄本人尋問の結果中の右認定に反する部分は措信し得ない。

2  右1の認定事実によれば、昭和六〇年中において、原告らには、本件期間契約に基づき、浜北砕石から別表3のC欄記載の各月分ごとに同欄のⅠ欄記載のとおりの収入すべき岩石譲渡代金額が生じたものと認めるのが相当であり、その合計額一八三五万円が本件収入の金額と認められる。

二  争点(二)について

1  本件売買契約に係る契約書には、その代金を一四九五万円とする旨の記載があることは右第二の一の5のとおりである。そして、原告氏原定雄本人尋問の結果中には、原告らは浜北砕石との間で、昭和六〇年中の岩石譲渡代金一四九五万円を右売買代金に振替充当する合意をした旨供述する部分が存在する。

2  しかしながら、右第二の一の5の事実に、証拠(乙第五、第一一号証、第三一ないし第三九号証の各一ないし三、原告氏原定雄本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば、(一) 昭和六〇年一〇月頃に、原告定雄から浜北砕石に対して、本件土地を買い取ってほしいのと申し出があり、浜北砕石も、将来、本件土地に、治山、治水、砂防等のための砂だまりを造る計画があったことから、この申し出を受け入れることとして、本件売買契約が締結されたこと、(二) 本件売買契約に際し、原告定雄から浜北砕石に対して、本件売買契約における代金額を一年間の賃貸借料(岩石譲渡代金)に見合う金額として、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金をこれに充てることとしたいとの申し出がなされたことにより、本件売買契約に係る契約書にはその代金額を一四九五万円とする旨及び本件基本契約を解除する旨の記載がなされたこと、(三) そのため、右代金額の現実の授受は行われなかったし、また、原告らも浜北砕石も、右代金支払債務が未履行であるとは考えていないこと、(四) しかし、それにもかかわらず、原告と浜北砕石との間で、本件期間契約に基づいて浜北砕石が採取した岩石の対価に関する新たな取決めはなされていないのみならず、原告らも浜北砕石も、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金を別途授受することを要するものとは考えていないし、また、浜北砕石が既に採取した岩石の返還に関する取決めもなく、右岩石が現実に浜北砕石から原告らに返還されたこともないこと、(五) 他方、原告らの昭和五五年分ないし昭和五八年分所得税につき、原告らがした確定申告及び修正申告又は更正の請求の経緯、並びに右各申告又は更正の請求における、昭和五五年以降毎年浜北砕石から得た本件契約土地又は本件追加契約土地の埋蔵岩石の譲渡代金収入に係る所得の所得区分及び納付すべき税額は、別表第4記載のとおりであること、(六) なお、浜北砕石は、本件売買契約締結後も本件追加契約土地からの岩石採取を継続したこと、以上の事実を認めることができ、原告氏原定雄本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信し得ない。

3(一)  右2の事実関係によると、原告ら及び浜北砕石は、本件売買契約の代金を一四九五万円と定めたとするものの、右両者間においては、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金として定められた金額のほかには、本件売買契約を締結したことにより浜北砕石から原告らに対し支払われる金額はないこと、及び浜北砕石が本件期間契約に基づいて既に採取した岩石の返還を要しないことが合意されているものと推認される。

しかして、仮に、原告定雄の供述するように、原告らと浜北砕石との間で、岩石譲渡代金をもって、本件売買契約の代金額に振替充当するという合意がなされたものとすれば、右振替充当の合意により岩石譲渡代金は未払の状態となったことになるのであるから、原告と浜北砕石との間で、振替充当された岩石譲渡代金のほかには本件売買契約の締結により浜北砕石から原告らに対し支払われる金額がないとの合意がなされることは、岩石譲渡代金の免除あるいは岩石の無償譲渡の相当性を裏付ける特段の事情が存しない限り、明らかに経済的合理性に反するものといわざるを得ないが、右特段の事情が存することについては何らの主張が立証も存しない。なお、仮に、本件基本契約が解除され、これに伴って本件期間契約が遡及的に解除されたものとすれば、原告らの浜北砕石に対する岩石譲渡代金債権は消滅するものの、原告らは、解除に伴う原状回復として浜北砕石が既に採取した岩石の返還を求め得ることになるから、原告らと浜北砕石との間で、その返還を要しないものとする合意がされることは、やはり経済的合理性に反するものといわなければならない。さらに、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金は、本件土地を含む本件追加契約土地全体から採取されて浜北砕石に譲渡される岩石の対価であるから(なお、本件土地の公簿面積二五四平方メートルは、本件追加契約土地の公簿面積の合計一万九千五百八平方メートルの約一・三パーセントであるにすぎない。)、これが本件土地のみの売買契約の代金中に解消されるとすることにも何ら合理性は存しない。

加えて、後記四の1の(二)の(1)のとおり、本件土地の時価相当額は一〇万円前後にすぎないものと認められるのであるから、たとえ将来本件土地に治山、治水、砂防等のための砂だまりを造る計画があったにせよ、浜北砕石が時価相当額の約一五〇倍に当たる一四九五万円もの代金で本件土地を買い取るとすることもまた経済的合理性に反することは明らかである。

(二)  他方、右2の事実関係によれば、原告らは、昭和五五年分ないし昭和五八年分所得税の確定申告及び修正申告又は更正の請求を通じ、岩石譲渡代金収入に係る所得が雑所得として課税されると、譲渡所得として課税される場合に較べ税負担が重くなり、その差額を、年間を通じ右収入のあった昭和五六年ないし昭和五八年分所得税の納付すべき税額に基づいて算出すると、各年とも原告らの合計額で三五〇万円を超えるものであることを知っていたことは明らかである。

(三)  右(一)のとおり、本件土地の売買代金額を一四九五万円とすることも、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金をこれに振替充当することもおよそ経済的合理性を欠く行為というべきであるが、このことと、右(二)の事実、並びに右2の認定のとおり本件売買契約を申し出たのも、その代金額を一年間分の賃貸借料(岩石譲渡代金)に見合う金額として、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金をこれに振替充当するということを申し出たのも、いずれも原告定雄であることとを併せ考えれば、原告らは、本件期間契約に基づく岩石譲渡代金収入に係る所得が雑所得として課税されることを回避するため、本件土地を浜北砕石に実質的に無償で譲渡することとした上、右譲渡を売買とし、かつ右岩石譲渡代金収入をもって本件土地の代金額とすることを仮装したものであり、また、浜北砕石においても、そうすることによって実質的に不利益はないのみならず、却って本件土地を無償で取得し得ることから、これに応じたものであることが推認できる。

したがって、本件売買契約の代金額とされた一四九五万円を含む本件収入は、実質において本件期間契約に基づく岩石譲渡代金収入であると認められ(なお、右2の認定のとおり、本件売買契約締結後も浜北砕石は本件追加土地からの岩石の採取を続けており、昭和六〇年中に原告らが本件期間契約に基づき浜北砕石から収入すべき岩石譲渡代金額の合計額は、右一のとおり一八三五万円であることが認められるから、右一四九五万円は、本件収入の一部であることになる。)、また、本件土地は原告らから浜北砕石に無償で譲渡されたものと認められる。

4  なお、昭和五六年ないし昭和五八年所得税において、岩石譲渡代金収入に係る所得が雑所得として課税される場合と、譲渡所得として課税される場合とでは、原告らの納付すべき税額の合計額に三五〇万円を超える差額が生じたのに対し、後記四の1の(二)の(1)のとおり、本件土地の時価相当額は僅々一〇万円前後であることを考えれば、原告らが、岩石譲渡代金収入に係る所得が雑所得として課税されることを回避するために本件土地を無償で譲渡することは何ら不自然であるとはいえない。

また、原告らは、売買契約における代金額や支払方法などの決定は契約自由の原則に委ねられているとか、売買代金額の高低は買主側の需要の強弱に強く影響されるとかと主張する。しかし、右3のとおり、本件売買契約は、その経済的合理性の欠如その他の具体的事情に照らして、実質において無償である本件土地の譲渡を売買とし、その代金額を一四九五万円とすることを仮装したものと認められるのであって、真実存在する売買契約の内容効力を問題としているのではないから、右のように認定することが契約自由の原則と抵触するものでないことはいうまでもない。また、一般的に売買代金額の高低が買主側の需要の強弱に影響されること自体はそのとおりであるとしても、右2の認定事実によれば、本件売買契約締結の当時に、浜北砕石が直ちに本件土地を必要とするような差し迫った事情があったわけではないことが窺われる上、仮に浜北砕石に強度の需要がある等、本件売買契約の代金額が高額とされるような事情があったものとすれば、岩石譲渡代金を右売買代金額に振替充当し、結局岩石を無償で譲渡したのと同様の結果となるような売買代金支払方法を定めたことがこれと明らかに符号しないことになるから、結局、右のような事情の存在はやはり認められないというべきである。したがって、原告らの右主張も失当である。

三  争点(三)について

1  右二のとおり、本件収入は、本件期間契約に基づき本件追加契約土地から採取された岩石の譲渡代金であると認められるところ、右岩石の譲渡も所得税法三三条一項にいう資産の譲渡に該当することは明らかであるから、本件収入に係る所得が雑所得に区分されるか、譲渡所得に区分されるかは、右岩石の譲渡が同条二項一号にいう営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当するか否かによって定まることとなる(なお、仮に右岩石の譲渡が営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当するとしても、右第二の一の4の事実関係に照して、これが事業所得を生ずべき事業(所得税法二七条、同法施行令六三条)に該当しないこと、また、右岩石譲渡に係る所得がその他の同法三五条一項掲記の各所得に該当しないことは明らかである。)

2  右一の1で認定した各事実及び右第二の一の4の各事実に、証拠(甲第二、第六、第七、第九号証、乙第一ないし第四号証、第七、第一〇ないし第一三号証、第一六、第一七号証)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 浜北砕石は、昭和四九年一月に、原告定雄及び原告強並びに原告定雄の父である氏原文雄との間で、別紙物件目録8記載の土地、同目録1記載の土地(本件土地)及び同目録2記載の土地に埋蔵されている岩石につき、代金二〇〇〇万円でその譲渡を受ける旨の契約を締結して(但し、右各土地の賃貸借契約の形式で行われた。)、岩石の採取をしたことがあったが、昭和五五年六月ないし七月頃に、原告らに対し、再度その所有土地から岩石を採取することを申し込み、同年一一月頃、原告らとの間で、同年一二月一日から昭和五六年一二月三〇日までの間にわたり本件契約土地に埋蔵されている岩石を採取してその譲渡を受け、右期間中、岩石譲渡代金として、採取量にかかわらず月額一七五万円宛てを原告らに支払う旨の契約(賃貸借契約の形式で行われ、右月額代金中一四五万円は賃料の名目とされたほか、残額三〇万円は樹木代金の名目で支払われることとされた。)を締結した。

(二) 右(一)の昭和五五年一一月頃の契約締結前の交渉過程では、原告らから、埋蔵岩石全部の一括譲渡及び譲渡代金の一括支払の要望もなされたが、浜北砕石が、その資金事情や、埋蔵岩石の品質及び将来的な岩石の需要に対する不安などによりこれに応ずることをせず、結局、右のような浜北砕石側の事情のほか、物価の変動等に即応して岩石譲渡代金を設定し得ることなども考慮した上、右(一)のとおり、採取期間を一年間とし、また、岩石譲渡代金は、本件契約土地に埋蔵されている岩石の価格の総額を二億一〇〇〇万円と見積り、これを一〇年間で採取するとの前提の下に、採石量にかかわらず月額一七五万円宛てとする契約の締結に及んだものであった。

(三) 右(一)の契約締結後の昭和五五年一二月頃、浜北砕石は原告らとの間で本件基本契約を締結した。本件基本契約の締結は、浜北砕石が岩石の採取をするための行政上の手続を行うに当たり、採石期間を三年間以上とする契約を締結する必要があったためになされたものであるが、右(二)の岩石譲渡代金の算出の前提とされた採取する埋蔵岩石の価格総額及び採取期間を改めて確認する内容のものであった。

(四) その後、昭和五六年一一月から一年ごとに右(一)と同旨の岩石譲渡契約が締結され、昭和五九年一一月の本件期間契約の締結に至ったが(但し、昭和五六年一一月及び五七年一一月締結の契約については契約書が作成されたが、昭和五八年一一月締結の契約及び本件期間契約については作成されなかった。)、昭和五八年中に、岩石の採取を行う土地が別紙物件目録16及び17記載の各土地の追加により本件追加契約土地となり、また、本件期間契約の契約期間中である昭和六〇年九月分から岩石譲渡代金が月額一四五万円に変更された。

(五) 原告らは、昭和六〇年一一月、岩石の売買等を業とする同族会社である有限会社佐鳴興産を設立し、その後、原告らが同会社に本件追加契約土地(浜北砕石に譲渡した本件土地を除く。)を賃貸し、同会社が浜北砕石との間で岩石譲渡契約を締結することとして、その頃、本件基本契約は解除された。

(六) 本件追加契約土地のうち、別紙物件目録9及び10記載の各土地を除くその余の各土地は、氏原文雄の父である氏原長作がもと所有しており、原告らが相続等によって取得したものであるが、別紙物件目録9記載の土地は、氏原長作がその長女氏原はつゑの長男である氏原照雄に売り渡し、さらにその二男である氏原良雄が相続により取得したもの、また同目録10記載の土地は氏原長作が所有していたものの、自作農創設特別措置法による売渡によって氏原はつゑの夫氏原殖が取得し、さらに氏原良雄が相続により取得したものであって、いずれもその後第三者に売り渡されたものを、昭和四九年ないし昭和五一年に原告定雄が買い受けて取得し、原告やす及び原告強に持分の一部を贈与したものである。

以上の事実を認めることができ、乙第一二号証の供述記載中、右認定に反する部分は措信し難い。

3  右の2の認定事実によれば、別紙物件目録9及び10記載の各土地を除く本件追加契約土地は、原告らがその父祖から承継したいわば家産としての土地であり(なお、同目録9及び10記載の土地も原告定雄の祖父に当たる氏原長作がもと所有していたものであるところ、原告らは右各土地も原告定雄が相続により承継したものと同視することができるものである旨主張するけれども、右2の認定事実に照らしてかかる主張は採用できない。)、原告らが、埋蔵岩石の譲渡をするために取得したものではないが、原告定雄及び原告強は、既に昭和四九年に本件追加契約土地の一部に埋蔵されている岩石を代金二〇〇〇万円で浜北砕石に譲渡しており、その後、昭和五五年一一月から本件期間契約に至るまで、五回にわたり毎年一一月に本件契約土地又は本件追加契約土地の埋蔵岩石を浜北砕石に譲渡する契約を締結していること、右各契約の締結に当たっては、浜北砕石の資金事業のほか、物価の変動等に即応して岩石譲渡代金を設定し得ることなども考慮して、契約期間を一年間としたこと、右各契約により原告らが得た譲渡収入金額は、昭和五六年ないし昭和五九年には毎年二一〇〇万円、昭和六〇年においても一八三五万円の多額に上ること、原告らは、本件期間契約の契約期間中である昭和六〇年一一月頃同族会社である有限会社佐鳴興産を設立し、その後、同社が浜北砕石との間で本件追加契約土地(但し、本件土地を除く。)の岩石の譲渡契約を締結するという形式で、それまでの原告らの地位を同社に引き継がせて営業を行っていること、などの事実が認められ、これらの事実を総合すると、本件期間契約に基づく岩石の譲渡が営利を目的として継続的に行われたものであると認めることができる。

4  原告らは、昭和五五年一一月頃の岩石譲渡契約締結の段階で、原告らは譲渡代金の一括払いを希望したものの、浜北砕石の資金事情に合わせて、一〇年間にわたる月ごとの分割払いとしたために一年ごとに譲渡契約を締結していたなどとして、右岩石の譲渡は一回的に行われたものであると主張する。

しかして、昭和五五年一一月頃の岩石譲渡契約締結の段階で、原告らが埋蔵岩石全部の一括譲渡及び譲渡代金の一括払いを要望したこと、契約期間を各一年間として一年ごとに岩石譲渡契約を締結した理由の一端が浜北砕石の資金事業にあること、一年ごとの岩石譲渡契約における譲渡代金は、浜北砕石が一〇年間にわたり採取する埋蔵岩石の価格総額及び右採取期間に基づいて算出されたものであることは、右2の認定のとおりであるが、しかし、契約期間を一年間としたことには、物価の変動等に即応して岩石譲渡代金を設定し得ることなどの考慮も働いていたことも右2の認定のとおりであり、現に、採石量の変化により本件期間契約の契約期間中である昭和六〇年九月分から岩石譲渡代金が月額一四五万円に変更されていること、また、岩石の採取を行う土地につき、昭和五八年中に別紙物件目録16及び17記載の各土地の追加がなされて本件追加契約土地となり、あるいは本件土地が浜北砕石に売り渡されるなどの変更があったが、これらに伴ってその都度岩石譲渡代金の変更がなされたわけではないこと、さらには、昭和五五年一一月頃の岩石譲渡契約締結後一〇年間が経過しないうちに、浜北砕石との岩石譲渡契約の当事者が原告らから有限会社佐鳴興産に引き継がれたことなどに照らすと、本件期間契約を含む各年ごとの岩石譲渡契約に基づく譲渡代金の支払が、一回的な岩石譲渡契約による譲渡代金の分割払いであるものとは到底認め得ず、したがって、原告らの右主張は失当である。

なお、甲第一九号証の二、第二〇号証の一ないし三によれば、原告定雄、原告強及び氏原文雄は、昭和四九年に行った別紙物件目録8記載の土地ほか二筆の土地の埋蔵岩石の譲渡に係る所得を譲渡所得に区分して同年分の所得税の確定申告を行い、これについては格別更正等の処分を受けなかったことが認められる。しかし、右2の認定事実によれば、同年の岩石譲渡契約締結の際には、これに引き続いて同様の岩石譲渡契約を締結することが予定されていたわけではなく、右岩石譲渡契約は一回的な契約としてなされたものであることが認められ、そうだとすると、継続性を欠く点において本件期間契約と異なり、所得税三三条二項一号にいう営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当しないこととなるから、これに係る所得を譲渡所得に区分してなされた確定申告につき更正等の処分がなされなかったからといって、右3の認定が左右される訳ではない。

5(一)  基本通達三三-三は、不動産を相当の期間にわたり継続して譲渡している者の当該不動産の譲渡による所得であっても、極めて長期間(概ね一〇年以上)引き続き所有していた不動産の譲渡による所得は譲渡所得に該当するとしているところ、原告らは、地中の岩石は分離されるまでは不動産である土地を構成しているのであるから、それが浜北砕石によって分離される前に締結された本件期間契約を含む各岩石譲渡契約は不動産を対象とする譲渡契約であり、これによる所得は同通達に従って譲渡所得とされるものである旨主張する。しかし、一般的な用語法における不動産の譲渡とは、土地の構成部分であるにすぎず、これから分離すれば動産となるべき岩石を、土地とは別個独立に(したがって、土地から分離することを予定して)譲渡するような場合をも含むものでないことは明らかであり、基本通達三三-三にいう不動産の譲渡の意義もこれと別異に解する理由は何ら見出すことはできないから、原告らの右主張は失当である。

(二)  また、原告らは、本件期間契約を含む各岩石譲渡契約による所得が基本通達三三-六の三に該当して、譲渡所得とされる旨主張するが、基本通達三三-六の三は明文により、営利を目的として継続的に行われる土石等の譲渡をその適用範囲から除外しているから、原告らの右主張も失当である。

(三)  さらに、原告らは、譲渡代金に係る所得区分に関する租税法規が一義的に明確でないとすれば、租税法律主義の原則に照らし、納税者にとって最も負担の少ない解釈適用が行われるべきであるとし、この点からしても、本件収入に係る所得は譲渡所得に区分されるべきものである旨主張する。しかし所得税法の資産の譲渡に係る所得の所得区分に関する諸規定が、法規として必然的に具有せざるを得ない抽象性の限度を超えて不明確であり、その解釈適用に困難を来しているものとは到底いえないから、原告らの右主張はその前提を欠くものであって失当というほかはない。

6  以上によれば、本件収入に係る所得は雑所得に区分されるものというべきである。

四  本件各課税処分の適否

1  本件収入に係る所得が雑所得に区分されるものとして、原告らの所得税額を算出すると次のとおりである。

(一) 雑所得金額

原告らの雑所得に係る収入金額は、本件収入(本件期間契約に基づき昭和六〇年中に原告らに生じた本件追加契約土地の岩石の譲渡代金収入)の金額一八三五万円に、原告定雄については本件追加契約土地の同原告の共有持分一〇分の四を乗じて算出された七三四万円であるものと、原告やす及び原告強については、それぞれ本件追加契約土地の同原告らの共有持分各一〇分の三を乗じて算出された五五〇万五〇〇〇円であるものと認められる。そして、右第二の一の4及び5の事実関係並びに弁論の全趣旨によれば、原告らが右各収入を挙げるについては必要経費を要さなかったものと推認されるから、右各収入金額がそれぞれ原告らの雑所得金額であるものと認められる。

(二) 本件土地の譲渡に係る長期譲渡所得金額

(1) 収入金額

原告らが本件土地を浜北砕石に無償で譲渡したものと認められることは右二の3の(三)のとおりであるから、所得税法五九条一項により、右譲渡時である昭和六〇年一〇月頃、その当時の時価によって本件土地の譲渡がなされたものとして、右譲渡に係る原告らの譲渡所得の計算をすべきことになる。

しかるところ、証拠(乙第二七、第二八号証)及び弁論の全趣旨によれば、ア 国土利用計画法施行令九条に基づき、静岡県知事が昭和六〇年七月一日を基準日として判定し、同年一〇月一日公告した静岡県内の各基準地の単位面積当たりの標準価格のうち、静岡県天竜市米沢字横吹三三九番一ほかの土地(地目・山林、地積七八五九平方メート、以下「比準土地」という。)に係る標準価格は一平方メートル当たり一二七円であったこと、イ 林地として基準地に選定された土地は静岡県内の三五か所であり、浜北市内に所在するものはないところ、比準土地は、浜北市に隣接する天竜市内に所在し、本件土地と比準土地との距離は、直線距離にして約六キロメートル程度であること、ウ 他方、相続税財産評価に関する基本通達に基づいて算定される本件土地及び比準土地の昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの間の相続税評価額は、本件土地が一平方メートル当たり二四八円、比準土地が一平方メートル当たり八〇円であったこと、以上の事実が認められる。

そして、右各事実並びに右アの標準価格及び相続税評価額の一般的な算定の目的、方法等に鑑みれば、右の比準土地の標準価格をその相続税評価額で除して算出される割合(標準価格の相続税評価額に対する倍率)を本件土地の相続税評価額に乗じて算出される額を、昭和六〇年一〇月頃の本件土地の単位面積当たりの時価とすることには合理性があるものと認められ、これにより算出した本件土地の一平方メートル当たりの価格は三九一円八四銭であるから、右価格に本件土地の公簿面積二五四平方メートルを乗じて算出される九万九五二七円をもって昭和六〇年一〇月頃の本件土地の時価とすることが相当である。

(算式) 127÷80=1.58

248×1.58=391.84

391.84×254=99.527

そうすると、本件土地の譲渡に係る収入金額は、右九万九五二七円に、原告定雄については本件土地の同原告の共有持分一〇分の四を乗じて算出された三万九八一〇円であるものと、原告やす及び原告強については、それぞれ本件土地の同原告らの共有持分各一〇分の三を乗じて算出された二万九八五八円であるものと認められる。

(2) 取得費

租税特別措置法三一条の四(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)の準用により、原告定雄については同原告の収入金額三万九八一〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出された一九九〇円と、原告やす及び原告強については、それぞれ同原告らの収入金額二万九八五八円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出された一四九二円と認められる。

(3) 譲渡費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは本件土地の譲渡につき三万七四〇〇円を要したことが認められるから、右金額は、原告定雄については本件土地の同原告の共有持分一〇分の四を乗じて算出された一万四九六〇円と、原告やす及び原告強については、それぞれ本件土地の同原告らの共有持分各一〇分の三を乗じて算出された一万一二二〇円と認められる。

(4) 長期譲渡所得金額

本件土地の譲渡に係る長期譲渡所得金額は、右(1)の収入金額から右(2)の取得費の額及び(3)の譲渡費用の額を控除して算出される額であり、原告定雄については二万二八六〇円、原告やす及び原告強については一万七一四六円である。

(三) 納付すべき税額

右(一)及び(二)の各事実と右第二の一の3の争いのない事実とによれば、原告らの納付すべき税額は、別表第2の1ないし3のとおり、原告定雄については四二三万〇八〇〇円、原告やすについては一〇一万九八〇〇円、原告強については一三六万一五〇〇円である。

2  原告定雄に対する更正に係る納付すべき税額は右1の(三)の原告定雄の納付すべき税額の範囲内であり、また、原告やすに対する更正に係る納付すべき税額及び原告強に対する更正に係る納付すべき税額は、いずれも右1の(三)の原告やす及び原告強の納付すべき税額と同額であるから、原告定雄に対する更正、原告やすに対する更正及び原告強に対する更正はいずれも適法である。

3(一)  原告定雄に対する更正により同原告がさらに納付すべき税額は一〇八万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)であるから、同法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に従い、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した五万四〇〇〇円の過少申告加算税を賦課した原告定雄に対する賦課決定は適法である。

(二)  原告やすに対する更正により同原告がさらに納付すべき税額は三七万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)であるから、同法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に従い、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一万八五〇〇円の過少申告加算税を賦課した原告やすに対する賦課決定は適法である。

(三)  原告強に対する更正により同原告がさらに納付すべき税額は七一万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)であるから、同法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に従い、右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した三万五五〇〇円の過少申告加算税を賦課した原告強に対する賦課決定は適法である。

第四結語

以上によれば、原告らの本件請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 荒川  裁判官 石原直樹 裁判官 小林直樹)

(別紙)

物件目録

番号 所在・地番 地目 地積

1 浜北市堀谷字奥ノ谷16番4 山林 254平方メートル

2 浜北市堀谷字奥ノ谷17番3 山林 2221平方メートル

3 浜北市堀谷字奥ノ谷17番1 山林 99平方メートル

4 浜北市堀谷字奥ノ谷30番4 山林 793平方メートル

5 浜北市堀谷字奥ノ谷30番 山林 429平方メートル

6 浜北市堀谷字奥ノ谷30番1 山林 3173平方メートル

7 浜北市堀谷字奥ノ谷25番2 山林 347平方メートル

8 浜北市堀谷字西ノ田18番 山林 611平方メートル

9 浜北市堀谷字西ノ田19番 山林 1312平方メートル

10 浜北市堀谷字西ノ田20番 山林 66平方メートル

11 浜北市堀谷字西ノ田21番1 山林

12 浜北市堀谷字西ノ田21番2 山林 2618平方メートル

(番号11及び12の各土地の合計面積)

13 浜北市堀谷字西ノ田23番1 山林

14 浜北市堀谷字西ノ田23番2 山林 3543平方メートル

(番号13及び14の各土地の合計面積)

15 浜北市堀谷字谷田27番 山林 1028平方メートル

16 浜北市堀谷字宮ノ尾2番1 山林 1785平方メートル

17 浜北市堀谷字宮ノ尾2番2 山林 1229平方メートル

以上

(別表第1の1) 原告氏原定雄に係る課税処分の経緯

〈省略〉

(別表第1の2) 原告氏原やすに係る課税処分の経緯

〈省略〉

(別表第1の3) 原告氏原勉に係る課税処分の経緯

〈省略〉

(別表第2の1)

原告氏原定雄の所得税額(被告主張額)

〈省略〉

(別表第2の2)

原告氏原やすの所得税額(被告主張額)

〈省略〉

(別表第2の3)

原告氏原強の所得税額(被告主張額)

〈省略〉

(別表第3) 原告らの昭和60年中の浜北砕石株式会社からの収入額算出表

〈省略〉

(別表第4) 原告らの昭和55年分ないし昭和58年分所得税の申告等の経過

〈省略〉

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